翻訳学校のサン・フレア アカデミー

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第19回 分詞の話

第19回 分詞の話

今回は、分詞についてお話しします。ここでは連体修飾語としての使い方を中心に扱います。

過去分詞

まず、連体修飾に使われる過去分詞についてお話しします。もちろんwhich is等の加わった形と訳し方はほぼ同様です。したがって、受身の訳し方と共通する点があります。連体修飾に使われる過去分詞の一般的な訳し方には、「された」「される」「した」「する」の4通りがあります。即ち、受動形で訳すか能動形で訳すかと、完了形で訳すか現在形で訳すかを考えなければなりません。受動形で訳すか能動形で訳すかは、第2回の受け身の話でお話したことと同じで、意味上の主語が、著者、オペレータなどはっきりしている場合は能動形で、そうでない場合は受動形で訳すべきです。完了形で訳すか現在形で訳すかは、その動作が完了しているか現時点では未完了か、1回きりのものか一般的なものか、などに応じて判断します。というより、いつも言うように、いくつかの訳を比べてみて最適のものを使えばよいのです。
なお、受身の話でも紹介した、「~させた」という訳し方も場合によっては効果的です。

例文1

If questions other than those indicated above are discovered during a reexamination proceeding, the existence of such questions will be noted by the examiner in an Office action.

「再審査の過程で先に指摘した以外の疑問点が見つかった場合は、そのような疑問点が存在することを審査官が通知書に記載する。」

例文2

Each of the references cited below are hereby incorporated herein by reference.

「以下に引用するそれぞれの参考文献を参照により本明細書に組み込む。」

例文3

Dysidiolide, a novel sesterterpenoid isolated in 1996 from the Caribbean sponge Dysidea etheria, exhibits antitumor activity at the micromolar level.

「カリブ海の海綿Dysidea etheriaから1996年に単離された新規なセスタテルペノイドであるジシジオライドは、マイクロモル・レベルで抗腫瘍活性を示す。」

例文4

Transmitter-receiver encodes the information received from source into a digital format by means of an analog-to-digital converter.

「送受信機は、送信元から受信した情報をアナログ-デジタル変換器によってデジタル形式にコード化する。」

過去分詞の様々な訳し方

以上は一般的な訳し方ですが、複合語の専門用語などでは様々な簡略形が用いられています。前述のように、過去分詞には受身と完了の意味が含まれます。

受身に焦点を合わせた訳し方には、「被~」や「所~」を使った表現があります。"被"は専門用語の熟語に用いられますが、造語能力は余りありません。controlledを"被制御~"と訳すなど、むやみに"被"を使うのは感心しません。

insured person被保険者

driven gear 被動歯車  cf. driving gear駆動歯車

called party被呼者(電話)  cf. calling party 発呼者

managed object 管理下のオブジェクト

pressurized flow rate 加圧下流量

"所"は決まった表現で用いられます。

predetermined 所定の given 所与の

desired 所望の intended 所期の

また、完了を強調した訳し方には、「~後」や「~済み」の形の表現があります。何にでも"~済み"を使う人がよくいますが、文脈に合わせて使うべきです。

例文5

Finally, ColorModel A returns ColorModel B, with the updated state variable, to the invoking entity.

「最後に、ColorModel AはColorModel Bを更新済みの状態変数と共に呼出し側のエンティティに返す。」

例文6

A data processing unit determines the base sequence of DNA based on the corrected fluorescence intensity.

「データ処理装置は補正後の蛍光強度に基づいてDNAの塩基配列を決定する。」

さらに、修飾語と被修飾語を「の」で繋いだ表現もあります。その他、繋ぎの語なしに直接結合させた形も用いられています。これらの形は受身も完了も明示せず、それは自明のこととするもので、熟語または決まった表現で用いられます。

said 前記(の) appended添付の enclosed同封の

integrated circuit 集積回路

consolidated account連結勘定

さらに、次のような訳し方もあります。

improved 改良型(の) cf. conventional 従来(型)の

pipelined パイプライン式

複合形

過去分詞の前に副詞がついて複合語として使われることがよくあります。above-mentioned は mentioned aboveと同じ意味で、「前述の」と訳します。通常は副詞の後にハイフンが付きます。この形の複合語には次のようなものがあります。

self-timed circuit自己調時式回路

already-issued bond既発債

過去分詞の前に名詞が付いて複合語となる場合もよくあります。この場合も普通は名詞の後にハイフンが付きます。user-specifiedはspecified by userと同じ意味です。つまり名詞は意味上の主語を表します。同じに訳してもよいのですが、原文の形を尊重して、specified by userは「ユーザによって指定された」、user-specified は「ユーザ指定の」と訳すこともできます。この形の複合語には次のようなものがあります。

program-controlled interruptionプログラム制御割込み

machine-executed step 機械実施ステップ

computer-aided design/computer-aided manufacturing

CAD/CAM (計算機援用設計製造)

computer assisted learningコンピュータ利用学習

exhaust driven super-charger排気駆動過給機

queue-driven task待ち行列主導タスク

過去分詞の前には意味上の主語が付くのが普通ですが、そうでないものもあります。いずれも、前置詞(on、to)が省略され、その目的語が前に付いた形になっています。なおby以外の前置詞を省略してこの形が取れるのは、based onなど常にその動詞と一緒に使われる前置詞の場合だけです。

ceramic-based liquid crystal displayセラミック・ベースの液晶表示装置

knowledge based expert system知識ベース型エキスパート・システム

object-oriented programmingオブジェクト指向プログラミング

common business-oriented language COBOL(一般業務向き言語)

派生動詞の過去分詞

名詞から派生した動詞は、定訳がない場合"~化する"と訳すのが普通ですが、次のように訳すとよりぴったりするものがあります。

circuitized 回路付き(の) textured テキスチャ付きの

patterned パターン付き(の) パターン(を)形成した

scheduled property 保険金額内訳付き被保険物

not dated 日付なし

unで始まる動詞の過去分詞は、"未"、"非"、"無"、"不"で訳すことができます。この場合も意味をよく考えて訳してください。

unappropriated profits 未処分利益

unsubstituted alcohols非置換アルコール

unarmed neutralism 非武装中立主義

unauthorized access 無許可アクセス

unaccompanied violin sonata 無伴奏バイオリンソナタ

unsaturated hydrocarbons 不飽和炭化水素

unidentified victim 身元不明の被害者

unaccounted-for disease 原因不明の病気

nonの付いた過去分詞も同様です。

non-connected storage 非連結記憶域

non-affiliated voters無党派層

non-woven fabric 不織布

なお、un付きの動詞は、定動詞形と過去分詞で意味が異なります。定動詞形はdeで始まるものと同じくunなしの動詞と逆の動作を表し、定訳のない場合は「~解除する」と訳します。

unspecify 指定解除する unspecified 未指定の

unplugged music :(電気楽器でない)生楽器による音楽

unplug the tool 工具の電源プラグを抜く

慣用表現

一般によく用いられる表現には次のものがあります。

associated withに関連する(と関連した)

単なる状態ではなく動作の実施を強調すべき場合には「と関連付けられた」とします。

related to に関係する(と関係のある)

動作を強調すべき場合には「と関係付けられた」とします。

entitled と題する、という名称の(発明)

dedicated to ~専用の destined for ~宛の

intended for ~向けの、のための

based upon に基づく、に基づいて

combined withとあいまって

形容詞になっているものもあります。これらの語は動作の意味はなくなっています。例えばelongatedは“引き伸ばされた”ではありません。

elongated 細長い prolonged長時間の

elevated 高い elevated temperature :(常温より高い)高温

advanced先端、先進、最新式、新型、高性能、高度、

enhanced拡張、強化 cf. enhance(機能)を高める

現在分詞と動名詞

現在分詞ingは、御承知のようにbe動詞と共に進行形を作ります。進行形は普通「~している」と訳されますが、日本語の"している"は進行形以外に完了形も表します。すなわち持続動作を表す動詞は"している"の形が進行形を表します(走っているis running)が、瞬間動作を表す動詞はこの形が完了形を表します(停まっているhas stopped)。進行形であることをはっきりさせたい場合には「~中である」「~しつつある」と訳すこともできます。英語でもbe in the course(process) of~やunder ~ で進行形の意味を表すことができます。

連体修飾語としての現在分詞は、必ずしも進行形を表しません。単なる現在形や一般時制を表す方がむしろ普通です。「~する」

また、動詞によっては「~した」と訳すべき場合もあります。"~する"では落ち着きません。なぜかというと、たとえば、英語のincorporateは状態動詞なのに、日本語の「組み込む」は動作動詞だからです。

a line adapter incorporating the multiplex interface
多重インターフェースを組み込んだ回線アダプタ

a character recognition system embodying the instant invention
本発明を実施した文字認識システム

また、御承知のように、名詞の前に付くing 形には現在分詞の他に動名詞もあり、意味が異なります。
a sleeping baby(眠っている赤ん坊)は現在分詞で、a baby who is sleeping と同じ意味ですが、a sleeping car(寝台車)は動名詞でa car for sleepingの意味です。すなわち動名詞は目的を表し、「~用の」と訳すとその意味がはっきりします。

複合形

ing形にも、前に副詞などが付く形があります。

self-recording thermometer自記温度計
inward opening window内開き窓

技術文ではing形の前に名詞が付く形もよく使われます。この場合、前の名詞が目的語になります。a water supplying tube(給水管)はa tube for supplying waterまたはa tube which supplies waterの意味です。

したがって、A doing B は、二通りの意味に取り得るので注意が必要です。たとえばdata controlling signalには「データを制御する信号」と「信号を制御するデータ」の2つの意味が考えられます。はっきりさせたい場合は、目的語が前に来る場合、目的語と動詞をハイフンで結びます。

sidewall-defining edge側壁を画定する縁部

例文7

There are several different types of cursor controlling input devices for controlling the movement of the cursor across a display screen.

「表示画面上でのカーソルの移動を制御するカーソル制御入力装置には、いくつかの異なるタイプのものがある。」

この文では、for以下から明らかなように、controllingの目的語はその前にあるcursorです。

例文7A

The output of integrator is supplied to a gain controlling input electrode of amplifier .

「積分器の出力は、増幅器の利得制御入力電極に供給される。」

例文8

The semiconductor integrated circuit comprises an input terminal for receiving input signals controlling output circuits.

「この半導体集積回路は、出力回路を制御する入力信号を受け取る入力端子を備えている。」

この文は、前文と類似のcontrolling outputを使っていますが、controllingの目的語は後ろのoutput circuitです。

次に示すのは対照的な形ですが、

pressure controlling valve「圧力制御弁」は圧力を調節するための弁、
pressure controlled valve「圧力操作弁」は圧力で操作される弁です。

慣用表現

一般によく用いられる表現には次のものがあります。

resulting :(その結果)得られる(結果として)生じる

existing 既存の remaining 残りの

foregoing 前述の

corresponding 対応する opposing 対向する 反対側の preceding 先行する succeeding 後続の

underlying下にある overlying上にある

including を含めて

starting withから始めて

accompanying drawing添付図面

adjoining countries隣接諸国

alternating load交番荷重

attending physician主治医

Acting Secretary General幹事長代理

Standing Committee常任(常設、常務)委員会

antとee

apellant(上訴人)と apellee(被上訴人)など-antおよび-eeで終わる語はフランス語の現在分詞および過去分詞に由来し、英語の-erおよび-edに相当するものです。solvent(溶媒)とsolute(溶質)なども同じ関係にあります。accuser(原告)と accused(被告)や、licensor(ライセンス許諾者)とlicensee(実施権者)など、行為者名詞と過去分詞の組み合わせを使うこともあります。-orや-arは-erと同じ意味ですが、フランス語またはラテン語に由来します。

-erは「する人」や「~装置」の意味で使われます。例えば、receiverは普通「受信者」「受信機」と訳されますが、はっきり訳さずにreceiving partyと同じく「受信側」と訳した方がよい場合もあります。

未来分詞

to be +過去分詞の形をドイツ語に倣って未来分詞と呼ぶことにします。be to + 不定詞は予定や義務を表しますが、未来分詞の意味もそれと同じで、受身の未完了形です。which should beに対応する形で、「~すべき」が基本的な訳ですが、文脈に応じて「しようとする」「したい」などと訳すこともできます。義務などのニュアンスをはっきり出さず、「される」「する」と訳すこともあります。"されるべき"と受動形で訳す必要はありません。

Problems to be Solved by the Invention 発明が解決しようとする課題

nature of the system to be simulated シミュレート対象システムの特性

features to be included in future releases 今後のリリースで追加される予定の機能

freight to be picked up at the station 駅留め貨物

hand luggage to be taken on board 機内持込み手荷物

chance not to be missed 絶好のチャンス

to be advised 追って通知する to be continued 続く

about to be published

未完了を強調した訳し方もあります。英文でも未完了を強調するにはtoの前にyetやstillを加えます。

to be determined 将来決定する、定(TBD)

yet to be published 刊の

still to be dealt with 処理の

次のものは形は似ていますが、文法的には異なります。すなわちwhich should beで書き換えできません。

good chance to be in close contact with nature 自然に親しむよい機会

right to be free from others' smoke 嫌煙権

desire to be independent 独立心

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