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第7回 関係構文の話

第7回 関係構文の話

関係文の場合も不定詞構文と同様に前から訳すか後ろから訳すかが大きな問題です。
関係詞の前にコンマがある場合は付加用法で前から訳し、コンマがない場合は限定用法で後ろから訳すと学校では教えられましたが、実際の文章では書き手が必ずしもこの規則を守っているとは限りませんので、コンマの有無を判断の基準にすることはできません。関係節による修飾が不可欠で、それがないと文意が変わってしまったり意味をなさなくなってしまうかどうかが問題です。
英文を書く場合は、限定用法は "that"、付加用法は ",which" を使うのが規範とされています。

限定用法

先行詞の語一般ではなく、関係文で修飾され特定された語が問題となるときは、限定用法として基本的に後ろから訳さなければなりません。

例文1

A patent application or a patent may not be amended in such a way that it contains subject-matter which extends beyond the content of the application as filed.

「特許出願または特許は、出願時のその出願の内容から逸脱する▼主題を含むような形で補正することはできない。」

例文1では、関係節を後回しにすると、特許出願などは主題を含んではいけないことになりますが、もちろん主題を含まない特許など無意味です。したがって、この文章を前から訳すことはできません。

例文2

Enzyme is a protein that acts as a catalyst, speeding the rate at which a biochemical reaction proceeds but not altering the direction or nature of the reaction.

「酵素とは、生化学反応の進行速度を加速するが、反応の向きや性質は変化させない、触媒として働く▼タンパク質である。」

例文2でも、酵素がタンパク質のうちで特定の働きをするものであって、どんなタンパク質でもいいものでないことは明らかですね。ただし、この場合は、「酵素はタンパク質の一種であり、触媒として働き、生化学反応の進行速度を加速するが、反応の向きや性質は変化させない。」と訳しても話としては成立しますが、翻訳としては誤訳です。原文の言い方では“触媒として働く”のは酵素ではなくタンパク質であり、“加速するが、...変化させない”のは触媒だからです。関係節の主語は主文の主語とは違うのですが、前から訳すときにこのように関係節の主語を無視してしまうのも、誤訳の主な原因の一つです。

限定用法の関係文をどうしても前から訳したい場合、一般には、「下記のような」などを用いて、先行詞の語が限定されていることを明示します。例文2Aは特許明細書から取ったものですが、このような文章は、通常は次のようなテクニックを用いて切らずに訳しています。

例文2A

The above objectives are achieved in accordance with the invention by a method of optimizing the compression of image data in accordance with at least one compression objective which includes:

- an initialization phase including the steps of:

- compressing a plurality of test samples in accordance with at least two different compression conditions,

- associating with each of the test samples at least one item of information characteristic of the content of the sample and at least one measurement of the corresponding compression results, and

- establishing at least one reference function associating at least one of the compression objectives and/or at least one compression result measurement and/or at least one of the items of characteristic information for each of the compression conditions, and

- a selection phase including for each set of image data to be compressed the steps of:

- determining at least one item of information characteristic of the set of image data to 'be compressed, and

- selecting the optimal compression condition that maximizes at least one of the compression objectives in accordance with the item or items of characteristic information and the reference functions.

「上記の目的は、本発明によれば、少なくとも一つの圧縮目的に従って画像データの圧縮を最適化する下記のような方法によって達成される。この方法は、初期設定段階と選択段階を含み、
初期設定段階は、
少なくとも2つの異なる圧縮条件に従って複数のテスト・サンプルを圧縮するステップと、
...ステップと、
...ステップとを含み、
選択段階は、
...ステップと、
...ステップを含む。」

「上記の目的は、本発明によれば、少なくとも一つの圧縮目的に従って画像データの圧縮を最適化する方法であって
初期設定段階と選択段階を含み、
初期設定段階が、
少なくとも2つの異なる圧縮条件に従って複数のテスト・サンプルを圧縮するステップと、
...ステップと、
...ステップとを含み、
選択段階が、
...ステップと、
...ステップとを含む、方法によって達成される。」

昔の法律でも「~にして、~なるもの」という似た言い方が使われていました。

付加用法

付加用法の場合、関係節の内容が主文と直接関係しないので、後ろから訳すと話の流れが乱れます。
また関係節の主語は主文の主語と異なるので、代名詞で訳すより、先行詞の語をもう一度はっきり訳出すべきです。

例文3

Network18 also may include mainframe computers such as mainframe computer38, which may be coupled to LAN10 by means of communications link22.

「ネットワーク18はまた、メインフレーム・コンピュータ38などのメインフレーム・コンピュータを含むことができ、(る。)このメインフレーム・コンピュータは通信リンク22によってLAN10に結合されたものでもよい。」

この文章では、殊にmayがあるため、関係節を修飾句として訳すとなかなかうまくいきません。なお( )内のように文を切ってもかまいません。

例文4

The arm including capacitor 20 is in series with coil 12, which in turn is connected in series with fixed grounded capacitor 22.

「コンデンサ20を含んでいるアームはコイル12と直列であり、コイル12固定接地コンデンサ22と直列に接続されている。」

この例のように、関係節中にin turnやthenがある場合は、付加用法であるのが普通です。in turnは主題が転換したことを示し、「話し換わって」と言うニュアンスですが、特に訳さなくとも「は」で表現できるのが普通です。

関係節が主語を修飾する説明句である場合、関係節の内容はそれ以降の文と直接関わりのない挿入文になりますので、連用形や「~が」などでつなぐのが普通です。

例文5

Downs syndrome, in which an individual's cells contain a third copy of chromosome 21, is diagnosed by karyotype analysis.

「ダウン症候群は、個体の細胞が染色体21の第3のコピーを含むものであり、核型分析によって診断される。」

whichの先行詞が具体的な単語ではなく前の文であることもよくあります。この場合は、which以下を受身にして「それによって~される」と訳すと分かりやすい訳文ができます。

例文5A

This reduced effort and greater freedom of movement lowers energy requirements both physically and mechanically, which reduces operating costs and reduces injuries to personnel.

「この労力の削減と運動の自由度の増大により、物理的にも機械的にも必要エネルギーが減少し、それにより運転コストが削減され、操作員の怪我も減少する。」

先行詞

先行詞がどれか正しく判定することがもう一つの問題です。関係文の修飾を受ける先行詞は、関係詞の直前にあると思われがちですが、ずっと前にあることもよくあります。文章のバランスや話しの流れをよくするために、関係節を後ろに置くことはよく行われています。

例文6

Any other inter-governmental organisation charged with the implementation of international procedures in the field of patents with which the Organisation has concluded an agreement shall be represented at the meetings of the Administrative Council, in accordance with any provisions contained in such agreement.

「当組織が協定を結んだ相手である、特許の分野での国際手続の実施を担当する▼他の政府間組織は、その協定に含まれる規定に従って、理事会に代表を送るものとする。」

この文のwhichの先行詞は、the Organizationと協定を結んだ相手なので、fieldやprocedureなどではなく、文頭のany other organizationということになります。(以下、訳文に当該語の訳が出ない場合、その語が訳文中で入るはずの位置を▼で示します)

先行詞をはっきりさせるために、先行詞の前にthat / thoseを付けることができます。なおこのthat / thoseは関係節以外の修飾語句の修飾先を明示するのにも使われます。このことを知らずに「その」という訳語を入れてしまうとおかしくなります。

例文7

The Dollar Amount of that portion of the Aggregate Purchasers' Investments that is not denominated in U.S. Dollars will not exceed the Foreign Currency Limit.

「購入者総投資額のうちの米国ドル建てでない▼部分のドル換算額が、外貨限度額を超えない。」

例文8

The effective management, storage and retrieval of data continues to be an important task for any computing environment, especially for those environments which process large amounts of information.

「データの効果的な管理、格納および検索は、あらゆるコンピューティング環境、特に大量の情報を処理する▼環境で常に重要なタスクとなっている。」

先行詞を明示するもう一つの方法として、関係代名詞の代わりに関係形容詞+名詞(=先行詞)で表すこともできます。

例文9

Any Affected Party when making a claim under this Section shall submit to Seller a statement as to such increased cost or reduced return, which statement shall, in the absence of manifest error, be conclusive and binding upon the Seller.

「関係当事者は、本節に基づいて請求を行う場合、かかる費用増または収益減少に関する明細書を売主に提出するものとし、この明細書は、明白な誤りがない場合、最終的なものとなり、売主を拘束するものとする。」

前置詞付き

関係詞に前置詞が付いている場合は訳しにくいので、ここで改めて取り上げることにします。
基本的な訳し方は、まず関係詞を「それ、その、そこ」と訳すものです。ただし「それ」などの語は、それが訳文中の前出の語を指すと解釈される恐れを減らすため、関係節の冒頭ではなく主語の後に置くのが賢明です。

その上で、その部分が省略できる場合は省略し、また同じ意味を表すより簡潔で明瞭な表現が見つかればそれを使います。例文2のat whichは前者の例、例文6は後者の例です。

例文10

Node is a device with which a user can access network18.

「ノードは、ユーザがそれを使ってネットワーク18にアクセスすることのできる(≒ユーザがネットワーク18にアクセスするための)▼装置である。」

例文11

The notice of an annual shareholder meeting need not include a description of the purpose or purposes for which the meeting is called.

「年次株主総会の通知には、会議がそのために招集される(=総会招集の)▼目的の記載は不要である。」

例文12

The four regions are significant in that they determine the useful temperature range that plastics can be used in.

「この4つの領域は、プラスティックが(その範囲内で)使用できる▼有用温度範囲がそれによって決まるので重要である。」

この例のように前置詞を関係詞thatと離して、文末に置くこともできます。この場合thatは省略することも可能です。

whose(= of which)およびwhere(= in which)等の関係副詞も訳し方は前置詞付きの場合と同じです。

例文13

A cDNA map can provide the chromosomal location for genes whose functions are currently unknown.

「cDNAマップは、現在(その)機能が未知の遺伝子の染色体上の位置を与えることができる。」

今取り上げたのは前置詞付きの関係文が限定用法の場合ですが、付加用法の場合は訳し方は簡単です。関係詞をand ~ it/themで置き換えて訳すだけでよいのです。例文14ではand the two most well known of them、例文15ではand there(in it)として訳します。

例文14

These products are sold under a variety of brand names of which the two most well known are Enerpac and GB Electrical.

「これらの製品は様々なブランド名で販売されており、そのうちもっとも有名なのはEnerpacとGB Electricalの2つです。」

例文15

This mRNA is moved from the nucleus to the cellular cytoplasm, where it serves as the template for protein synthesis.

「このmRNAは核から細胞質に移動し、そこで蛋白合成のテンプレートとして働く。」

プラス

whereは場所を表す関係副詞以外にもう少し広い意味で使われます。実務文書では、以下の2つの用法がよく見られます。例文17は、in the caseが省略されたものと見なすことができます。例文18の用法は数式や化学式の後によく見られます。

例文16

Oral proceedings shall take place before the Receiving Section at the request of the applicant only where the Receiving Section considers this to be expedient.

「口頭審理は、受理部門がそれを得策と見なす場合にのみ、出願人の請求に応じて受理部門で行われるものとする。」

例文17

The magnetic fluxφ1 and the magnetic induction B are linked by the relation:

φ1 = BScel

where Scel designates the passage section of the magnetic fluxφ1.

「磁束φ1と磁気誘導Bは次の関係式で結びつけられている。

φ1 = BScel

上式でただし)、Scelは磁束φ1の通過断面積を表す。」

法律文書などでは、前置詞+関係詞の代わりにwherein, whereby等の合成形がよく使われます。in which, by whichと同じです。ドイツ語のworin, wodurch等と類似の形です。例文19は特許のクレーム、例文20は契約書の常套句です。

例文18

The method of claim 1 wherein the increment constant is one.

「増分定数が1である(ことを特徴とする)▼、請求項1に記載の方法。」

例文19

IN WITNESS WHEREOF, the parties have caused this Agreement to be executed by their respective officers thereunto duly authorized, as of the date first above written.

これを証するため、各当事者は、頭記の期日に正式の権限を有するそれぞれの役員の手で本契約書に調印した。」

whicheverなど疑問詞にeverが付いた形は、次の2つの用法があります。

例文20

Whichever features do not meet the search criteria are discarded.

「検索基準に合わないどのフィーチャ廃棄される。」

例文21

The amount of punitive damages that may be awarded in any civil action subject to this title shall not exceed 3 times the amount of damages awarded to the claimant for economic loss, or $250,000, whichever is greater.

「本法律に基づく民事訴訟で認定される懲罰的損害補償額は、原告に対し経済的損失について認定された損害額の3倍と25万ドルのどちらか多い方を超えないものとする。」

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