第6回 不定詞構文の話
前回お話しした分詞構文は、大きく分けて、主文より先に、すなわち副詞節として訳すべきものと、結果の分詞構文のように主文の後に訳すべきものがあります。この判断を誤ると意味が大幅にずれますので、自分の解釈で意味が通じないときは、訳す順序を変えることを試みてください。
今回は不定詞構文およびそれと関係の深いso that構文などのお話です。この場合も、前から訳すか、後ろから訳すか、すなわち不定詞を、結果を表すものとして扱うか、それとも目的を表すものとして扱うかが最大の問題です。
to不定詞の副詞的用法は次のような前置詞句や副詞節と対応しています。この対応関係を利用すると、訳しやすい別の形を使ってうまく訳すことができます。なお、respond toなど不定詞以外のtoが先行する場合は、重複を避けてfor ...ingと書くのが普通です。
for ≡ (so as) to ≡ so that
for (the purpose of) ≡ (in order) to ≡ in order that
文頭の不定詞
不定詞が文頭に来る場合は、目的として訳します。
例文1
To get around this problem, designers built memory systems so that each time something was read a copy was immediately written back.
「この問題を回避するために、設計者たちは、何か読み取られる度にコピーが即座に書き戻されるようにメモリ・システムを構築した。」
この場合、「ために」ではなく、「する(ため)には」と訳さなければならないことがあります。主文の時制や話法(助動詞)が関係するようです。
例文2
To process crystalline polymers, their temperature must be raised above the melting point.
「結晶性ポリマーを処理するには、その温度を融点より高く上げなければならない。」
マニュアルなどでは、少し意訳して「~する場合は」「~したいときは」などとすることもあります。
例文3
To access the user options, double-click the Configure program icon in the ENTRAN:Server program group.
「ユーザ・オプションを表示したいときは、ENTRAN:Serverプログラム・グループ中のConfigureプログラム・アイコンをダブルクリックします。」
主動詞より前に挿入されている場合も、文頭にある場合と扱いは同じです。
例文4
Every national history, to be complete, must, in a certain sense, be the history of Europe.
「あらゆる国の歴史は、それが完全なものとなるためには、ヨーロッパの歴史でなければならない。」
独立不定詞
やはり文頭に来るものに、独立不定詞の用法があります。この用法は、意味も訳し方も懸垂分詞構文とよく似ています。
例文5
To summarize the operation of the network,
「ネットワークの動作を要約すると、」
結果を表す不定詞
翻訳の方法を教わるとき、原文の順序をできるだけ保存するために定動詞の後の不定詞は前から訳せとよく言われます。この場合、主動詞を連用形+テの形で訳すのが普通です。この形は、前後の動詞が内容的に強い関連をもつことを示し、因果関係などを示すのに適しています。
例文6
The mixture was placed in a mold and heated to 200°C under pressure to crosslink the polymer.
「混合物を金型に入れ加圧下で200℃に加熱して、ポリマーを架橋させた。」
例文7
These fail bits are further compressed to generate one chip fail signal to be sent off chip.
「これらの障害ビットがさらに圧縮されて、1チップ障害信号を生成し、それがチップから送り出される。」
実際にはどんな場合にでも前から訳していいのではなく、不定詞で表される動作が完了していると文脈上認められる場合だけです。不定詞が次のような動詞の場合には前から訳してよいことが多いようです。
form, provide, produce, generate
例文8
The solvent was then removed to give the crosslinked polymer having pore sizes of 5-20 microns.
「次いで溶媒を除去すると、孔径5~20ミクロンの架橋したポリマーが得られた。」
同じく前から訳すにしてもこのような訳し方もあります。一連の工程の最終段階で、かつ定動詞が過去形の場合にはこう訳した方が自然です。不定詞の部分は受身に訳してあることに注意してください。次のような動詞が不定詞として使われます。
yield, obtain, give, form, leave, complete
目的を表す不定詞
不定詞構文を後ろから、はっきり目的の意味に訳した方がよい場合も沢山あります。
例文9
Numerous mutation studies of the CD4 protein have been carried out to determine the regions of CD4 involved in the MHC class II binding.
「MHCクラスII結合に関与するCD4の諸領域を決定するために、CD4蛋白の変異に関する研究が多数実施されてきた。」
目的を表すことをはっきりさせるためにin order to, in order thatが使われます。
例文10
In order to transfer files with FTP you need to have permission to use the remote machine.
「FTPでファイルを転送するには、遠隔マシンの使用許可をもっている必要がある。」
意図を表す不定詞
同じく後ろから訳すのでも、「ために」ではなく「ように」と訳すべき場合もあります。これを「意図を表す不定詞」と呼ぶことにします。
例文11
When a switch is configured to allow two devices to exchange information, all other devices that rely on the switch are blocked, i.e. they must wait until the switch can be reconfigured.
「2台の装置が情報を交換できるように交換機が構成されているとき、その交換機を利用する他のすべての装置は遮断される、すなわち交換機が構成を変更できるようになるまで待機しなければならない。」
例文12
The state machine can be initialized to run all the patterns.
「この状態機械は、全てのパターンを実行するように初期設定することができる。」
次のような動詞が本動詞のとき、不定詞は大抵は意図を表し、後ろから「ように」と訳さなければなりません。「ために」と訳せる場合は、不定詞がなくても動詞の意味は完結していますが、「ように」と訳すべき動詞は不定詞がないと意味が完結せず、不定詞が補語のような役割をしていると思われます。
change, update, modify, improve, set, adjust, adapt, control, design, program
意図を表すことをはっきりさせるためにso as to, so that構文が使われます。
例文13
Section 1-11 of the Plan hereby is amended so as to read as follows:
「本プランの第1-11節をここに以下のように(読めるように)修正する。」
so that構文
例文14
The nodes are numbered so that two nodes are adjacent if and only if the binary representations of their IDs differ by one bit.
「2つのノードのIDの2進表現が1ビットだけ異なる場合にのみそれらのノードが隣り合うように、ノードに番号を付ける。」
例文15
High dielectric constant materials are desirable for use as the insulator portion of capacitors, so that the electrical energy can be stored in as small a volume of material as possible.
「コンデンサの絶縁体部分としては、できるだけ小さな材料体積中に電気エネルギーが蓄積できるように、高誘電率の材料を使用することが望ましい。」
ただし、so that構文は意図ではなく結果を表し前から訳すべき場合も沢山あります。その場合、「~ので、~」と訳す人がよくいますが、意味は余りずれないものの、前文と後文の比重が変わってしまうので、「したがって」「その結果」と訳した方がよいと思います。
例文16
In this case, the distance from the transducer to the two elements of the antenna are equal so that the test signals have equivalent characteristics.
「この場合、変換器からアンテナの2つのエレメントまでの距離が等しく、したがってテスト信号は等価な諸特性を持つ。」
such thatは、通常は「~するような」と訳しますが、so thatと同様に使われていて「ように」と訳すべき場合もよくあります。なお、so thatはin such a way thatとほぼ同義です。
例文17
Prior to sintering, the green sheets are stacked on top of each other, such that via holes filled with conductive material in one sheet match corresponding vias in another.
「焼結を行う前に、グリーンシートを、あるシート中の導電体で充填されたバイアホールが別のシート中の対応するバイアと整合するように(互いに)積み重ねる。」
なお、so~that構文、such~that構文は、意図ではなく程度を表します。
例文18
The Vandal race, once so fearfully celebrated in the annals of mankind, has so utterly perished from the face of the earth, that we are not aware that any vestiges of their language can be traced.
「バンダル人は、かっては人類の年代記で非常に悪名が高かったが、その言語の痕跡が追跡できるとは知れないほど完全に地上から姿を消した。」
例文19
In high molecular weight polymers the molecules are so restricted and have such an attraction for each other that some materials are structurally stable up to 200 or more.
「高分子量のポリマーでは、分子が非常に拘束され、かつ互いに非常に大きな引力をもつので、材料によっては200度以上まで構造的に安定なものもある。」
主語付きの不定詞
to不定詞の意味上の主語は、ご承知のようにfor~で表しますが、実際に英文を読むときにこのことを忘れている人をよく見かけます。もちろん、そうでないforもあります。
例文19A
a mechanism for processes executing locally on the data server machine to access the same data
「データ・サーバ・マシン上でローカルに実行中の複数のプロセスが同一のデータにアクセスするための機構」
例文20
An adequate range of curing temperatures exist for either type of material to be cured.
「どちらの種類の材料を硬化させるにも充分な硬化温度の範囲が存在する。」
forの訳し方
名詞構文の訳し方の復習になりますが、目的を表すforは、始めに示した対応関係を利用して、不定詞またはso that構文の形で訳すときれいに訳せます。
data for transmission = data to be transmitted
「送信すべきデータ」
for close control of temperature
「温度を厳密に制御するために」
send the command to the controller for execution
「コマンドを実行のため制御装置に送る」
例文21
FXU22 outputs results of its operations for storage at selected entries in FPR buffers in GPRs32.
「FXU22はその演算の結果を出力して、 GPR32のFPRバッファの選択されたエントリに記憶する。」
「FXU22は、GPR32のFPRバッファの選択されたエントリに記憶するためにその演算の結果を出力する。」
例文22
The removable electronic subassembly is designed for placement into a data processing system.
「この取り外し式電子サブアセンブリは、データ処理システム内に配置できるように設計されている。」
なお、to不定詞やforは、潜在的に可能の意味を含んでいることに注意してください。so that構文に書き直すとmayが現れます。
プラス
目的、意図を表すが前から訳したい場合は、次のような訳し方を用いることができます。
例文23
Heated gas is introduced into the sample directly to fluidize and ensure that the sample uniformly contacts the heated walls.
「サンプル中に加熱気体を直接導入して流動化させ、サンプルが加熱壁に均一に接触するようにする。」
例文24
The minutes of the testimony of a witness, expert or party shall be read out or submitted to him so that he may examine them.
「証人、専門家、または当事者の証言の記録をその前で読み上げあるいは提示して、当人が検討できるようにするものとする。」
to不定詞などがいくつも重なるとき、上記の訳し方をうまく組み合わせれば、「ために」「ように」など同じ表現の連続が避けられます。
例文25
Thus, since the two requirements are in contrast with each other, a trial and error approach is used to determine the best value to use to best satisfy both criteria.
「したがって、2つの要件が互いに対照的なので、試行錯誤手法を使用して、両方の基準を最もよく満たす使用すべき最良値を決定する。」
例文26
periodically broadcasting routing information such that one or more routing information tables in each of a plurality of routers in said network are updated such that packets destined to said mobile terminal are forwarded to a next router for delivery of communications packets to said mobile terminal.
×「通信パケットが前記移動端末に送達されるように、前記移動端末を宛先とするパケットが次のルータに転送されるように、前記ネットワーク内の各ルータ内の経路指定情報テーブルが更新されるように、前記移動端末から経路指定情報を周期的に同報通信するステップ、」 →
「通信パケットを前記移動端末に送達する目的で、前記移動端末を宛先とするパケットが次のルータに転送されるように、前記ネットワーク内の複数のルータそれぞれ中の1つまたは複数の経路指定情報テーブルを更新するために、経路指定情報を周期的に同報通信するステップ、」
なお、目的を表す場合と結果を表す場合は必ずしも判然と区別できるものではなく、必ず目的として訳すべきもの、目的に訳した方がよいもの、どちらでもよいものなど、連続的であると考えられます。どちらの意味になるかは、主に文脈によりますが、訳し方によっても変わります。たとえば不定詞で表される動作が実際にそこで完了している場合は、結果として訳すべきです。
for the purpose ofは、定義の範囲を表す場合、「する目的で」とは訳せません。
例文27
For purposes of the preceding sentence, the term "interstate commerce" means commerce among the several States or with foreign nations.
「前の文において、『州間取引』の語はいくつかの州の間または外国との取引を意味する。」
その他の不定詞
不定詞を伴う表現には、目的、結果を表すもの以外にも多くの表現があります。特に評価動詞の後の不定詞はよく誤訳されます。
例文28
The human genome is estimated to comprise at least 100,000 genes.
「ヒト・ゲノムは少なくとも10,0000個の遺伝子を含むと推定される。」
慣用表現
不定詞を伴う次のような動詞は、下記のように訳すときれいに訳せます。
serve to, function to, operate to
~する働きをする(cf.~するように機能/動作する)
help to, assist to , aid to
~する助けとなる(cf.~するのに役立つ、するのを助ける)
continue to
引き続き~する(cf.~し続ける)
remain to
依然として~する