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第14回 andとorの話

第14回 andとorの話

今回は、機能語編の最初として並立接続詞andとorのお話をします。私は講習会などでよくandの話だけで丸一日かかると話しますが、この簡単なテーマでもそんなに沢山の内容があるのです。まず、英語のandやorは、名詞を始めとする単語、句、節、文をつなぐことができます。

つなぐべき語句が沢山ある場合は、A, B, C and D と最後の語句の前にだけandを入れます。このスタイルは、現在は英語その他のヨーロッパ語だけでなく、新しく文章語が成立したアジア・アフリカの多くの言語でも採用されています。その場合、普通はCの後にコンマを入れませんが、実務文では関係をはっきりさせるためにコンマを入れることもよくあります。orも全く同じです。

日本語でも、名詞をつなぐ場合は「A、B、C(、)およびD」「A、B、C(、)またはD」とそのまま訳すことができます。これが訳し方の基本になります。

例文1

SPONSOR acknowledges that such rights must be used by SPONSOR at all times in a manner consistent with the good name, goodwill, reputation and image of the OCP, POC and the GAMES.

「スポンサーは、常にOCP、POC、および本競技大会の名声、信用、評判、およびイメージを損なわない形でこれらの権利を行使しなければならないことを認める。」

ここで問題となるのは、どの語句とどの語句が並立しているかを判断することです。しかも、英語では、andやorの前後の共通な語句は一度しか書かないので、翻訳の際には補って訳す必要があります。

例文2

Each of the defendants infringes these patents by importing, selling or offering to sell in the United States IC devices made by or for it using various Auto ID methods that infringe the method claims of the listed patents.

この文ではfor itの後にusingが出てきてそれがimportingなどと並立しているように見えて私も惑わされましたが、itはeach of the defendants を意味し、made by it or made for itが省略形で書かれています。つまり、by or for です。

「各被告は、列挙した特許の方法クレームを侵害する種々の自動ID法を使って自ら製作したまたは他者に製作させたICデバイスを、米国内で輸入し、販売し、または売り申し込みを行うことにより、これらの特許を侵害している。」

例文2A

Unless the context otherwise requires, words importing the singular include the plural and vice versa, words importing the masculine gender include the feminine and neuter and vice versa, and references to persons include incorporated and unincorporated bodies.

「文脈上異なる解釈を要する場合を除き、単数形を表す言葉は複数形も含み、その逆も同様であり、また男性形を表す言葉は女性形および中性形も含み、その逆も同様であり、また自然人を示す言葉は法人団体および非法人団体も含む。」

ただし、各要素が簡単な場合は、andを訳さずに単に名詞を列挙する方が簡潔になります。落語の「茶、栗、柿、麩」の類です。たとえばsuch as A, B, C, and Dは「A、B、C、Dなど(の)」となります。なお、such as A and Bは「AやBなど(の)」とします。

接続詞の繰り返し

また、各要素が長く複雑な修飾句を伴う場合、「~Aと、~Bと、~Cと、~Dと」とすると、並立する各要素の範囲を明確にすることができます。この場合、Dの後の「と」は全体がどこに係るかを表す働きをしていますが、目障りなので係り方がはっきりしている場合は省略できます。

なお「こと」などの形式名詞をつなぐときは「と」は使うべきではありません。「と」はかなり強い表現なので、形式名詞の影が薄くなるからだと思われます。その場合は、必要なら「および」または「ならびに」を何度も繰り返します。また短い簡単な語句を羅列する場合もこの方式はくどくなるのでお勧めできません。

orの場合は日本語では「か」がこれに相当しますが、余り語呂がよくありませんので、私は普通は「A、またはB、またはC、またはD」と訳しています。すなわち、必要に応じて、接続詞を繰り返すこともできます。これは、英語ではまずありません。

なお、読点は、本来の助詞「と」「や」「か」の場合は「と、」のようにその後ろに入りますが、それ以外のものは必要な場合は「、および」と前に入ることに注意して下さい。

例文3

A gain control circuit comprising: a comparator circuit, which compares voltage levels from a reference voltage and an input signal; at least one switch coupled to the output of the comparator circuit, the at least one switch switching according to whether the input signal is above or below the reference voltage; an operational amplifier coupled to the at least one switch, said operational amplifier outputting a control signal; and a first variable resistor changing resistance according to the control signal, the first variable resistor coupling an input to the operational amplifier to a second reference voltage.

「利得制御回路は、基準電圧と入力信号の電圧レベルを比較する比較器回路、比較器回路の出力部に結合され、入力信号が基準電圧より高いか低いかに応じて切り替わる少なくとも1つのスイッチ、この少なくとも1つのスイッチに結合され、制御信号を出力する演算増幅器、制御信号に応じて抵抗を変化させ、演算増幅器への1入力を第2の基準電圧に結合する第1の可変抵抗器を備える。」

入れ子構造

次に、各要素自体が並立構造になっている場合があります。その場合、英語では通常、一組の並立構造毎に最後の要素の前にandが付きます。したがって、A and B and C and Dでは、(A+B)+(C+D)の構造が考えられますが、その他に((A+B)+C)+D、A+(B+(C+D))もあり得ます。A, B and C and Dでは、(A+B+C)+Dの構造が考えられますが、その他にA+B+(C+D)、A+(B+C)+Dもあり得ます。どれが正しいかは、各要素の意味や品詞、機能を見て判断します。それが対応するものだけが並立できるわけです。この構造の把握が1つの問題です。andの数と位置がその手がかりになります。

なお、入れ子構造(階層構造)とは、「(AorBを含むX)or(CorDを含むY)」など、(A)の形になっているものを言い、「(AorB)の(CorD)」など、(B)の形のものは各単位がそれぞれ独立に扱えます。

入れ子構造

この入れ子式表現をどう訳すかですが、日本語では、より小さい単位をつなぐ場合は「および」、より大きな単位をつなぐ場合は「と」を使い、さらに大きな単位がある場合は「ならびに」を使って階層的に表します。orの場合は、より小さい単位をつなぐ場合は「もしくは」、より大きな単位をつなぐ場合は「または」を使い、さらに大きな単位がある場合は「あるいは」を使うことができます。
法律文では、解釈を厳密にするために、andは単独使用の場合は「及び」、階層的に使う場合は、小さいレベルから順に「及び、並びに」とすることになっています。3レベル以上の場合は「並びに」を何度も使って「及び、並びに、並びに・・・」です。用言が階層構造になっている場合も「及び、並びに」を使います。orは単独使用の場合は「又は」、階層的に使う場合は、小さいレベルから順に「若しくは、又は」です。若しくはの方が小さいことに注意して下さい。3レベル以上の場合は「若しくは」を繰り返して「若しくは、若しくは・・・、又は」となります。ただし、法律文で「と」が使われないわけではなく、またこの方式では3レベル以上が区別できないので、先の3段階方式で問題ないと思います。最近の法律でもこの方式を使っているものがあります。

なお、入れ子でない場合は「および」と「または」が標準形であることを忘れないで下さい。先にも触れたとおり「と」はかなり強い表現であり、前後の名詞が強いつながりを持つことを示すので、簡単な羅列の場合に使うべきではありません。すなわち、入れ子でない場合も、接続される語句同士の関係に応じて「と」と「および」を使い分け、また切れ方のさらに大きい場合は、「ならびに」「あるいは」を使うことができます。

例文4

"GAMES" means the Winter Pacific Game, scheduled to be held in New Zealand in November 1999, including the Opening and Closing Ceremonies thereof and all competitions and social and cultural programmes scheduled during or around the said Winter Pacific Games.

この文章のand構造を分析すると、Opening and Closingで1セット、social and culturalも1セットであり、during以下はcompetitionsとprogrammesにかかるので、(Opening & Closing) Ceremonies + [ competitions + (social & cultural) programmes ]となります。

「「本競技大会」とは、1999年9月にニュージーランドで開催予定の冬季太平洋競技大会を指し、その開会式閉会式、ならびにこの冬季太平洋競技大会中またはその前後に予定されている試合および親睦文化行事をすべて含む。」

例文4A

"SITES" means locations of the GAMES and includes the competition and controlled access training areas, their controlled parking spaces, the official hotels, the press and television centers, VIP areas, the Athletes Village, the Media Village, any other area which requires either accreditation or a GAMES ticket to gain access and other official areas which are under the control of the OCP or POC, as the case may be.

「「開催地」とは本競技大会が開催される場所を指し、競技区域、立入制限された練習区域、立入制限されたその駐車場、公式ホテル、報道テレビセンター、VIP専用区域、選手村、メディア村、立ち入りに許可または本競技大会のチケットが必要なその他の区域、およびOCPまたはPOCの管理下にあるその他の公用区域を含む。」

動詞の接続

andが動詞、形容詞、節などをつないでいる場合、日本語では連用形で既に表されています。「~し、~し、そして~する」などとandをそのまま訳す人がよくいますが、この「そして」は普通は不要です。

なお、動作の並立を強調したい場合は、「かつ」「しかも」を使って、「~し、かつ~する」などと訳します。ただし、サ変の漢語動詞やカタカナ動詞の場合は「送信および受信する」のように語幹を「および」でつなぐことも場合によっては許容されます。もちろん、orの場合は、名詞と動詞で訳語に区別はありません。「~するか、または~するか」や「~したり、~したり」は冗長で、「~し、または~する」と連用形でつなぐだけで十分だと思います。

また次の例のような場合も、もちろんandは訳しません。言い換えれば、日本語ではandが入らないと思われるケースで、英文ではandが必要となる場合があります。henceの他、thus(~、したがって)、therefore(~、したがって)、then(~、次いで)、in particular(~、特に)などがあります。
その他、more than ~、and less than ~など、andの訳を省略した方がよい場合も沢山あります。

例文5

The frequency and hence the spectral position of this signal are perfectly known and independent of the external environment.

「この信号の周波数は、▼したがってそのスペクトル位置は完全に知られ、外部環境とは無関係である。」

なお、henceやthereforeを「ひいては」と訳すのは書面語としては不適切だと思います。

and/or

実務文書では、and/orと言う表現がよく出てきます。これは名詞をつなぐ場合は「Aおよび/またはB」動詞などの場合は「Aし、かつ/またはBする」とそのまま訳すことができます。

例文6

Further, no external wires or handshaking signals are required to communicate a busy state between the DRAMs and/or the memory controller.

「さらに、DRAM間および/またはDRAMとメモリ・コントローラの間でビジー状態を通信するのに外部ワイアやハンドシェーク(初期接続)信号が不要である」

ただし、/を使わずに訳すべき場合もあり、その場合は名詞なら「A、またはB、あるいはその両方」「A、およびB、あるいはそのいずれか一方」などと訳します。動詞の場合は、「Aし、またはBし、あるいはその両方を行う」と訳します。この表現は、英語ではA, B, or bothと言い変えることができます。and/orが繰り返し出てくる場合には、「A、またはB、またはC、あるいはその組合せ」「Aし、またはBし、またはCし、あるいはその組合せを行う」などと訳すことになります。

orの他の訳し方

orは文脈によっては「または」以外の形で訳すべき場合があります。命令形の後では「さもないと」と訳すことは御存知でしょう。まず、言い換えのorがあります。普通は「すなわち」と訳しています。ただし、普通のorも誤って「すなわち」と訳す人がよくいます。言い換えであると確信できない場合は、誤訳となるのを避けるため、「または」としておく方が無難です。言い換えを「または」と訳すのは不十分な表現ではあっても誤訳とまでは言えませんが、選択のorを「すなわち」と訳すのは明らかな誤りだからです。

次に、whetherの後など選択を求めるorは、「それとも」と訳すべきです。

例文7

It is sometimes difficult to determine whether a material is in a crystal or liquid crystal state.

「ある材料が結晶状態なの、(それとも)液晶状態なのを判断するのは難しいことがある。」

最後に、条件分けの場合や、複数の可能性を表す場合は、「また」と訳せば十分です。つまり、日本人の考え方では、and 扱いになります。 これを「または」とすると変ですが、面白いことに同類の言葉なのに「あるいは」とすると変にはなりません。こうした場合に英語でorを使うのは、同時に両方が起こることはないからだと思います。

例文8

A simple solution to the aforementioned problem is to either replace the lamp if it is damaged or properly connect it to the inverter circuit if that remains to be done.

「上述の問題に対する簡単な解決策は、ランプが損傷した場合にはそれを交換し、また正しく接続が行われていない場合にはランプをインバータ回路に正しく接続することである。」

例文8A

The network can be local in nature, or can be further connected to other systems.

「このネットワークは、ローカルな性格のものでもよく、また他のシステムにさらに接続されているものでもよい。」

修飾の範囲

andやorを挟む語群(名詞など)の前にある修飾句は、すべての語にかかることもあれば、直後の(つまり最初の)語だけに係ることもあります。同様に、語群の後ろにある被修飾句や修飾句も、すべての語にかかることもあれば、直前の(つまり最後の)語だけに係ることもあります。どちらかの判断は基本的に文脈によるのですが、内容をよく検討せずに勢いで訳してしまってこの判断を誤るケースがまま見られます。誤訳の主な原因の一つです。
たとえばLiquids or solids prepared as solutionsは、文脈にもよりますが、普通は「液体、または溶液に調製した固体(=その固体の溶液)」と解釈するのが妥当です。

なお、通常、語群のそれぞれに冠詞が付いている場合は後ろの被修飾句/修飾句が最後の語だけに係り、語群の前に1つしか冠詞がない場合は後ろの被修飾句/修飾句が語群全体に係ります。

as well as

A as well as Bと言う表現がよく使われます。これは、ほとんどの辞書には「Bと同様にAも」「BのみならずAも」と後ろから訳すやり方しか載っていなかったのですが、現代の実際の英語では「AならびにB」「Aと同様にBも」と前から訳す方が適切な場合が圧倒的に多いのです。ドイツ語のsowohl als, フランス語のaussi bien queと形も意味も同じです。ところが独仏語の辞書には昔から前から訳す訳し方が出ているのに、何故か英語の辞書には出ていないのです。これはandの強調形と見なすことができます。

例文9

Electronic components in use typically generate significant heat, which unless cooled, can result in damage to the components themselves as well as damage to adjacent components.

この例では、the components themselvesが話題の焦点になっているので、 adjacent componentsよりも前に訳すべきです。

「電子部品は使用中に通常はかなりの熱を発生し、冷却しないと、そのために、その部品自体および隣接する部品の損傷を招く恐れがある。」

例文9A

The invention can be adapted particularly well to radars for automobiles as well as to all types of continuous-wave transmission radars.

「本発明は、自動車用レーダ、ならびにあらゆるタイプの連続波伝送レーダに特によく適合することができる。」

この例では、前が具体的なもの、後がより広い一般的なものなので、前から訳すのが妥当です。

例文10

As used herein, the phrase "multichip structure" generally refers to multichip "stacks" or "cubes", as well as to conventional multichip modules.

逆にこの例では、後ろの部分が基本概念で、前の部分は派生概念なので、後ろから訳すのが自然ですね。こういういわば昔の使い方も時に見られます。

「本書では、"マルチチップ構造"という語句は一般に、従来型のマルチチップ・モジュールだけでなく、マルチチップ"スタック"やマルチチップ"キューブ"をも指す。」

なお、andとは違ってas well asの前後には通常は修飾関係が及ばないので、これを使うと修飾範囲を明確にすることができます。

例文10A

The cache controller 106 includes prefetch logic 203 as well as a number of registers which controls the prefetching function.

「キャッシュ・コントローラ106は、プリフェッチ論理回路203と、プリフェッチ機能を制御するいくつかのレジスタとを備えている。」

プラス

もう一つ、andの拡張表現としてfollowed byという形があります。これは前後の語句が意味上では同等の重みを持つので、直訳するのではなく、慣用表現と見なして「~と、その後に続く~」と解釈した方が自然です。つまり順序指定付きのandです。次の文例のending withなど、前後、上下、その他の相互関係を表す表現も慣用句ではありませんが、同様に扱えます。

例文11

The manufacturing of VLSI chips typically involves the repeated patterning of photoresists, followed by etch, implant, deposition, or other operation, and ending with the removal of the exposed photoresist to make way for the new photoresist to be applied for another iteration of this process sequence.

「VLSIチップの製作は一般に、フォトレジストをパターン化すること、続いてエッチング、注入、付着(堆積)その他の操作を行うこと、最後に露出したフォトレジストを除去して、次回の工程シーケンスで新しいフォトレジストを塗布するための場所を空けてやることを繰り返すものである。」

このinvolveも主語は方法、目的語が動名詞になっています。

次の文例のoverlaid by も同様です。つまり、実際にはsurface layerにもoxidation layerと同等の重みがあるわけです。

例文11A

This dielectric layer may be a stack, i.e. comprised of a first oxidation layer overlaid by a thin surface layer.

「この誘電層は、スタック、すなわち第1の酸化層と、その上の薄い表面層からなるものとすることができる。」

この他、with, along withも、形の上では後の語句が前の語句に従属していますが、意味上はandと同じく前後の語句を同等に扱うべき場合があり、逆にbread and butterのようにandがwithの意味になる、つまりの後の語句が従属的な関係になることもあります。

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