第19回 分詞の話
はじめに
今回は、分詞についてお話しします。ここでは連体修飾語としての使い方を中心に扱います。
過去分詞
まず、連体修飾に使われる過去分詞についてお話しします。もちろん which is 等の加わった形と訳し方はほぼ同様です。したがって、受身の訳し方と共通する点があります。連体修飾に使われる過去分詞の一般的な訳し方には、「された」「される」「した」「する」の4通りがあります。即ち、受動形で訳すか能動形で訳すかと、完了形で訳すか現在形で訳すかを考えなければなりません。受動形で訳すか能動形で訳すかは、第2回の受け身の話でお話したことと同じで、意味上の主語が、著者、オペレータなどはっきりしている場合は能動形で、そうでない場合は受動形で訳すべきです。完了形で訳すか現在形で訳すかは、その動作が完了しているか現時点では未完了か、1回きりのものか一般的なものか、などに応じて判断します。というより、いつも言うように、いくつかの訳を比べてみて最適のものを使えばよいのです。
なお、受身の話でも紹介した、「〜させた」という訳し方も場合によっては効果的です。
● 例文1
● 例文2
● 例文3
● 例文4
過去分詞の様々な訳し方
以上は一般的な訳し方ですが、複合語の専門用語などでは様々な簡略形が用いられています。前述のように、過去分詞には受身と完了の意味が含まれます。
受身に焦点を合わせた訳し方には、「被〜」や「所〜」を使った表現があります。"被"は専門用語の熟語に用いられますが、造語能力は余りありません。controlled を"被制御〜"と訳すなど、むやみに"被"を使うのは感心しません。
insured person :被保険者
driven gear :被動歯車 cf.
driving gear :駆動歯車
battered child :被虐待児
confined ground water
:被圧地下水
damaged property :被害資産
called party :被呼者(電話) cf.
calling party :発呼者
managed object :管理下のオブジェクト
pressurized flow rate
:加圧下流量
"所"は決まった表現で用いられます。
predetermined :所定の given
:所与の
desired :所望の intended
:所期の
なお"所定の"は determined と思われるかもしれませんが、determined は"求めた値" など直前の動作の結果を意味し、"所定の"に相当するのは predetermined です。"所載の"に相当する英語は published in や printed in など決まっていませんが、訳語としては効果的です。
また、完了を強調した訳し方には、「〜後」や「〜済み」の形の表現があります。何にでも"〜済み"を使う人がよくいますが、文脈に合わせて使うべきです。
● 例文5
● 例文6
さらに、修飾語と被修飾語を「の」で繋いだ表現もあります。その他、繋ぎの語なしに直接結合させた形も用いられています。これらの形は受身も完了も明示せず、それは自明のこととするもので、熟語または決まった表現で用いられます。
said :前記(の) appended
:添付の enclosed :同封の
integrated circuit
:集積回路
consolidated account
:連結勘定
さらに、次のような訳し方もあります。
improved :改良型(の) cf.
conventional :従来(型)の
pipelined :パイプライン式
複合形
過去分詞の前に副詞がついて複合語として使われることがよくあります。above-mentioned は mentioned above と同じ意味で、「前述の」と訳します。通常は副詞の後にハイフンが付きます。この形の複合語には次のようなものがあります。
self-timed circuit
:自己調時式回路
already-issued bond
:既発債
過去分詞の前に名詞が付いて複合語となる場合もよくあります。この場合も普通は名詞の後にハイフンが付きます。user-specified は specified by user と同じ意味です。つまり名詞は意味上の主語を表します。同じに訳してもよいのですが、原文の形を尊重して、specified by user は「ユーザによって指定された」「ユーザが指定した」、user-specified は「ユーザ指定の」と訳すこともできます。この形の複合語には次のようなものがあります。
program-controlled
interruption :プログラム制御割込み
machine-executed step
:機械実施ステップ
computer-aided design/computer-aided
manufacturing :CAD/CAM(計算機援用設計製造)
computer assisted
learning :コンピュータ利用学習
exhaust driven super-charger
:排気駆動過給機
queue-driven task :待ち行列主導タスク
過去分詞の前には意味上の主語が付くのが普通ですが、そうでないものもあります。いずれも、前置詞(on、to)が省略され、その目的語が前に付いた形になっています。前に意味上の主語がくるものも、前置詞 by が省略され、その目的語が前に来たものと統一的に考えることができます。
ceramic-based liquid
crystal display :セラミック・ベースの液晶表示装置
knowledge based expert
system :知識ベース型エキスパートシステム
object-oriented programming
:オブジェクト指向プログラミング
common business-oriented
language :COBOL(一般業務向き言語)
exclusively defense-oriented
policy :専守防衛政策
派生動詞の過去分詞
名詞から派生した動詞は、定訳がない場合"〜化する"と訳すのが普通ですが、次のように訳すとよりぴったりするものがあります。
circuitized :回路付き(の) textured
テキスチャ付きの
patterned :パターン付き(の) パターン(を)形成した
scheduled property
:保険金額内訳付き被保険物
colored :着色(した)
not dated :日付なし
unで始まる動詞の過去分詞は、"未"、"非"、"無"、"不"で訳すことができます。この場合も意味をよく考えて訳してください。
unprocessed :未処理(の)
unappropriated profits
:未処分利益
unsubstituted alcohols
:非置換アルコール
unarmed neutralism
:非武装中立主義
unlisted shares /stocks
:非上場株
unskilled workers
:未熟練[単純]労働者
unadjusted debts :未修正借方項目
unamortized bond :未償還債券
unauthorized access
:無許可アクセス
unauthorized absence
:無断欠勤
unaccompanied violin
sonata :無伴奏バイオリンソナタ
unleaded gas :無鉛ガソリン
unattended railway
crossing :無人踏切
unabridged version
:無削除版
unsaturated hydrocarbons
:不飽和炭化水素
undocumented workers
:不法就労者
unidentified victim
:身元不明の被害者
unaccounted-for disease
:原因不明の病気
unaccompanied baggage
:別送手荷物
unbalanced budget
:赤字予算、不均衡予算
unbelted vehicle occupants
:シートベルトを締めていない乗員
unbiased opinion :偏見のない意見
undocumented aliens
:外国人登録してない在留外人
nonの付いた過去分詞も同様です。
non-connected storage
:非連結記憶域
non-employed worker
:非雇用労働者
non-shared standard
hyperspace :非共用標準ハイパー空間
non-affiliated voters、non-aligned
voters :無党派層
non-registered bond
:無記名債券
non-woven fabric :不織布
なお、un 付きの動詞は、定動詞形と過去分詞で意味が異なることがあります。定動詞形は de で始まるものと同じく un なしの動詞と逆の動作を表し、定訳のない場合は「〜解除する」と訳します。
unspecify :指定解除する unspecified
:未指定の
unplugged music :(電気楽器でない)生楽器による音楽
unplug the tool :工具の電源プラグを抜く
慣用表現
一般によく用いられる表現には次のものがあります。
associated with :に関連する(と関連した)
単なる状態ではなく動作の実施を強調すべき場合には「と関連付けられた」とします。
related to :に関係する(と関係のある)
動作を強調する場合には「と関係付けられた」とします。
entitled :と題する、という名称の(発明)
dedicated to 〜 :専用の destined
for 〜 :宛の
intended for :〜向けの、のための
based upon :に基づく、に基づいて
combined with:とあいまって
形容詞になっているものもあります。これらの語は動作の意味はなくなっています。例えば elongated は"引き伸ばされた"ではありません。
elongated :細長い prolonged
:長時間の
elevated :高い elevated
temperature :(常温より)高温
advanced :先端、先進、最新式、新型、高性能、高度、
enhanced :拡張、強化 cf.
enhance(機能)を高める
現在分詞と動名詞
現在分詞 ing は、御承知のように be 動詞と共に進行形を作ります。進行形は普通「〜している」と訳されますが、日本語の"している"は進行形以外に完了形も表します。すなわち持続動作を表す動詞は"している"の形が進行形を表します(走っている is running)が、瞬間動詞を表す動詞はこの形が完了形を表します(停まっている has stopped)。進行形であることをはっきりさせたい場合には「〜中である」「〜しつつある」と訳すこともできます。英語でも be in the course (process) of〜 や under 〜 で進行形の意味を表すことができます。
連体修飾語としての現在分詞は、必ずしも進行形を表しません。単なる現在形や一般時制を表す方がむしろ普通です。「〜する」
また、動詞によっては「〜した」と訳すべき場合もあります。"〜する"では落ち着きません。
a line adapter incorporating
the multiplex interface :多重インターフェースを組み込んだ回線アダプタ
a character recognition
system embodying the instant invention :本発明を実施した文字認識システム
また、御承知のように、名詞の前に付く ing 形には現在分詞の他に動名詞もあり、意味が異なります。
a sleeping baby (眠っている赤ん坊)は現在分詞で、a baby who is sleeping と同じ意味ですが、a sleeping car (寝台車)は動名詞で a car for sleeping の意味です。すなわち動名詞は目的を表し、「〜用の」と訳すとその意味がはっきりします。
複合形
ing 形にも、前に副詞が付く形があります。
self-recording thermometer
:自記温度計
inward opening window
:内開き窓
技術文では ing 形の前に名詞が付く形もよく使われます。この場合、前の名詞が目的語になります。a water supplying tube (給水管)は a tube for supplying water または a tube which supplies water の意味です。
block handling routine
(BHR) :ブロック処理ルーチン
command line editing
key :コマンド行編集キー
cursor positioning key
:カーソル移動キー
したがって、A doing B は、二通りの意味に取り得るので注意が必要です。たとえば data controlling signal には「データを制御する信号」と「信号を制御するデータ」の2つの意味が考えられます。はっきりさせたい場合は、目的語が前に来る場合、目的語と動詞をハイフンで結びます。
sidewall-defining edge :側壁を画定する縁部
● 例文7
この文では、for 以下から明らかなように、controlling の目的語はその前にある cursor です。
● 例文7A
● 例文8
この文は、前文と類似の controlling output を使っていますが、controlling の目的語は後ろの output circuit です。
次に示すのは対照的な形ですが、
pressure controlling
valve :「圧力制御弁」は圧力を調節するための弁、
pressure controlled
valve :「圧力操作弁」は圧力で操作される弁です。
慣用表現
一般によく用いられる表現には次のものがあります。
resulting :(その結果)得られる(結果として)生じる
existing :既存の remaining
:残りの foregoing :前述の
corresponding :対応する opposing
:対向する、反対側の preceding :先行する succeeding :後続の
underlying :下にある overlying
:上にある
including :を含めて
starting with :から始めて
accompanying drawing
:添付図面
adjoining countries
:隣接諸国
alternating load :交番荷重
attending physician
:主治医
Acting Secretary General
:幹事長代理
Standing Committee :常任(常設、常務)委員会
antとee
apellant(上訴人)と apellee(被上訴人)など ant および ee で終わる語はフランス語の現在分詞および過去分詞に由来し、英語の er / or および ed に相当するものです。solvent(溶媒)と solute(溶質)なども同じ関係にあります。accuser(原告)と accused(被告)など両方とも英語形を使う場合もありますし、licensor(ライセンス許諾者)と licensee(実施権者)など組み合わせて使うこともよくあります。〜ant 形は、単独でも名詞および形容詞としてよく使われています。
〜er は「する人」や「〜装置」の意味で使われます。例えば、receiver は普通「受信者」「受信機」と訳されますが、はっきり訳さずに receiving party と同じく「受信側」と訳した方がよい場合もあります。
未来分詞
to be + 過去分詞の形をドイツ語に倣って未来分詞と呼ぶことにします。be to + 不定詞は予定や義務を表しますが、未来分詞の意味もそれと同じで、受身の未完了形です。which should be に対応する形で、「〜すべき」が基本的な訳ですが、文脈に応じて「しようとする」「したい」などと訳すこともできます。義務などのニュアンスをはっきり出さず、「される」「する」と訳すこともあります。"されるべき"と受動形で訳す必要はありません。
意図、目標を強調した訳し方には次のようなものがあります。
Problems to be Solved
by the Invention :発明が解決しようとする課題
nature of the system
to be simulated :シミュレート対象システムの特性
amount of money to be
raised :募金目標額
予定であることを強調した訳し方には次のようなものがあります。
features to be included in future releases :今後のリリースで追加される予定の機能
ニュアンスをはっきり出さない訳し方には次のようなものがあります。
amount of tax to be
paid by self-assessment :申告納税額
bank note to be issued
:発行銀行券
communicable disease
to be quarantined :検疫伝染病
freight to be picked
up at the station :駅留め貨物
hand luggage to be
taken on board :機内持込み手荷物
items to be handed
at the registration :登録時に提出する物品
chance not to be missed
:絶好のチャンス
to be advised :追って通知する to
be continued :続く
about
to be published :近刊
未完了であることを強調した訳し方もあります。英文でも未完了を強調するには to の前に yet や still を加えます。
to be determined :将来決定する、未定(TBD)
yet
to be published :未刊の
still
to be dealt with :未処理の
次のものは形は似ていますが、文法的には異なります。すなわち which should be や will be で書き換えできません。
good chance to be
in close contact with nature :自然に親しむよい機会
right to be free from
others' smoke :嫌煙権
desire to be independent
:独立心