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第5回 分詞構文の話

今回は分詞構文のお話です。副詞節や形容詞節の代りに分詞構文がよく使われますが、その機能・意味・修飾関係は訳者が補わなければなりません。

漢文で「而」という字がよく出てきたのを覚えていますか。これには「にしてand(at the same time)、しこうしてthus、しかもin addition、しかるにon the contrary、しかれどもnevertheless」などいろんな読み方がありましたね。これは、訓読の際に個々の意味を考えて訳し分けたためで、而の字自体は単に接続を表すだけです。

日本語にも似た働きをする表現があります。たとえば、連用形+テの形は、普通は「左手で鞄を抱え、右手で吊革にぶら下がっていた」など並列または継起、すなわちandの意味ですが、「手をつない歩きました」は付帯状況を表しています。「昨日は風邪を引い会社を休みました」は明らかに理由を表すもので、問い直せば無意識のうちに「風邪を引いたから」の返事が返ってきます。

分詞構文も同様に意味が不定で、形の上からはどの意味で使われているのか判断できません。ただし、その意味はコンテキストで決まり、native speakerなど事情に通じた人が読めば即座に意味が判断できるものです。したがって、文章中で意味のつながりを理解できるか、内容の流れをフォローできるかどうかが分詞構文を扱う際の鍵です。

分詞構文は、主文の前に来る場合と、主文中特に主語の後に挿入される場合と、主文の後にくる場合があります。結果を表す場合には必ず後置されますが、その他の場合は意味によって位置が決まることはあまりありません。

分詞構文には、現在分詞、完了分詞(having+過去分詞)、過去分詞が用いられます。

また主文と主語が同じ通常の分詞の他に、(主文の主語とは異なる)意味上の主語が前に付いた独立分詞と、意味上の主語が(主文の主語とは異なるのに)省略された懸垂分詞も使われます。

分詞構文が表す意味には、時、条件、譲歩、理由、付帯状況、手段、結果などがあります。

以上が一般の文法書による分詞構文の説明の要旨ですが、ここでは例によって実用的な見方で分析していきます。

●例文1

The Greek army and fleet then withdrew to Tenedos -- pretending to have ended the siege. The Trojans, seeing the Greek army was gone, opened the gates and conveyed the wooden horse into Troy.
ギリシャの軍隊と艦隊は、包囲をやめた振りをして、テネドス島に引き返した。トロイ人は、ギリシャ軍が去ったのを見て見ると)、門を開き木馬をトロイに運び入れた。

この例文には分詞構文が2カ所使われています。前者はwhileに近い意味、後者はandの代用、when、またはbecauseと解釈できます。どちらも連用形+テで訳せますが、後者は終止形+トでも訳せます。その場合はwhenの意味になります。

●例文2

Referring to Figure 1, a description shall now be provided of an exemplary embodiment of the invention.
図1を参照して、これから本発明の例示的実施形態の説明を行う。

●例文3

Referring to Fig. 3, central processor complex 104 is divided into a plurality of logical partitions (LPs) 118.
図3を参照すると、中央処理装置複合体104は、複数の論理区画(LP)に分かれている。

例文2と例文3の分詞構文はほぼ同文ですが、状況が違うため、訳し方も違ってきます。すなわち前者では主文と分詞の意味上の主語が同じ(I)ですが、後者では異なります。この場合は「して」と「すると」を置き換えることはできません。逆に訳すと変な訳文になりますね。例文2はby 〜ingに近い意味、例文3はwhenの意味です。

●例文4

The Company expects its trend of increasing sales and earnings per share to continue into 1998, assuming no significant downturn in the economy in North America or Western Europe.
当社は、北米や西欧で大きな経済の落ち込みがないと仮定して、売上げと1株当たりの収益が増加する傾向が1998年まで続くと予想している。

これはもちろん条件のifの意味です。ところで、The Company expectsを取り除いて、Its trend of 〜 will continue〜とした場合は、「仮定すると」と訳した方が自然になります。この場合も意味上の主語の異同という事情が関係しています。

●例文5

TEE sells customized systems primarily using direct sales personnel and employs over 340 direct sales people worldwide.
TEE社は主として直接販売員を使って特注システムを販売しており、世界中に340人を越える直接販売員を抱えている。

これはもちろんby〜ingの意味です。

●例文6

Aeneas escaped from Troy with the images of his ancestral gods, carrying his aged father on his shoulders, and leading his young son Ascanius by the hand, but in the confusion of his hasty flight he lost his wife, Creusa.
アエネアスは、祖先神の肖像を手に、年老いた父を(肩)に背負い、幼い息子アスカニウスの手を引いて、トロイから逃れたが、慌ただしい逃亡の混乱の中で妻クレウサとはぐれた。

この例は付帯状況を表すと考えられます。carrying以下の訳にテが付いていないのは、日本語で「背負い」が主文の動詞「逃れた」に直接かからず、「引いて」と並列に扱われているからです。

●例文7

Previously, net financing costs had been decreasing, reflecting lower interest rates and reduced debt levels.
以前は、低金利と負債の少なさを反映して、純金融費用は減少を続けていた。

この例はどう書き換えればよいでしょうか。強いて書き換えればas a result of などが考えられます。これまでどんな意味か、他のどんな表現に近いかを見てきましたが、実際にはそのことはあまり考えなくてよいと思います。以上の例からわかるように、大抵は「して」または「すると」で訳せます。

接続詞付き

このように分詞構文は様々な意味を表すのに使用されるので、どの意味で使っているのかはっきりさせるために、接続詞などを補うことがあります。

●例文8

In the absence of the President, a Vice President shall perform the duties of the President, and when so acting, shall have all the powers of and be subject to all the restrictions upon the President.
会長の不在時には副会長が会長の職務を遂行(するものと)し、副会長は、会長の代理として行動するとき、会長のすべての権限を有し、会長に対するすべての制限に服するものとする。

●例文9

When discussing the capacity of an entire memory system, however, the preferred unit is a byte, which is commonly accepted to be 8 bits of information.
ただし、メモリ・システム全体の容量について論ずるとき、好ましい単位はバイトであり、これは8ビットの情報とすることが一般に受け入れられている。

●例文10

In addition, awareness of the internal structure of a computer is often necessary when analyzing the performance of a program.
さらに、プログラムの性能を分析する際には、コンピュータの内部構造を知っていることがしばしば必要である。

●例文11

While retaining a core of truth, the ancient histories became confusing stories of almost nonsensical proportions, elevating the heroes of the past to super-human and godlike statue.
古の歴史は、事実の核心部分を保持しながらも、過去の英雄を超人、神像に祭り上げて、途方もない大きさの支離滅裂な物語になった。

●例文12

Certain transactional protocols make it possible to perform a transaction while guaranteeing four properties referred to as "ACID":
ある種のトランザクション・プロトコルを使うと、"ACID"と呼ばれる4つの特性を保証しながら、トランザクションを実行することが可能になる。

接続詞の代わりに前置詞を付けると、文法上は動名詞構文になりますが、実際には区別しても意味はないと思います。

●例文13

After processing by fast Fourier transform for example, an average of the testing signals is taken on a given number of recurrences of radar transmission.
たとえば高速フーリエ変換によって処理した後、レーダ伝送を所与の数だけ繰り返したものに対して試験信号の平均をとる。

結果を表す分詞構文

これまでの例は、分詞構文が主文に対してどんな位置にあれ、分詞構文を主文より先に訳すものでした。これに対して、逆に主文を先に訳すべきものがあります。訳文では分詞の動詞が後にきて定動詞となります。

●例文14

the step of volatizing the solvent from the layered tape forming the greensheet.
層状テープから溶媒を蒸発させてグリーンシートを形成する段階

このforming以下は形容詞句ではありません。結果を表す分詞構文です。結果を表す分詞構文は不定詞構文to form〜などで言い換えることができます。

●例文15

The energy from the pump light is absorbed into the fiber region 140, causing electrons within the fiber to enter a higher energy level.
ポンプ光からのエネルギーがファイバ領域に吸収されて、ファイバ内の電子をより高いエネルギー状態に入らせる。

●例文16

As a result, all of the test partitions are synchronized to a common test clock value, allowing them to interact as a true sysplex.
その結果、すべてのテスト区画が共通テスト・クロック値に同期されて、それら(の区画)が真のシスプレックスとして相互作用できるようになる

allowing以下は直訳すると「それらを真のシスプレックスとして相互作用できるようにする。」ですが、「それら」を主語にして受身に変えると訳文が自然になります。一般に、接続詞で導かれる副文や、関係文、不定詞構文でも、このような言い換えが可能かつ有効です。

分詞構文を主文の前に訳すか、後に訳すかは、基本的に文脈によって判断するしかありませんが、上の例文のform、cause、allowのように、結果の分詞構文によく使われる動詞があります。

また、結果の分詞構文であることを明示するために、副詞thus、therebyなどがよく使われます。

●例文17

This problem is typically reduced by applying an external, steady-state phase shift using a phase modulator placed in one of the Mach-Zehnder fiber ams, thus setting the phase bias precisely to its desired value.
この問題は一般に、マッハ−ツェンダーファイバー・アームの一本に配置した位相変調器を用いて外部定常状態位相シフトを加え、それによって位相バイアスを正確にその所望値に設定することによって軽減される。

●例文18

The normal component would deflect the beam and proof mass further, thereby giving a false acceleration reading.
法線成分はビームとプルーフ・マスをさらに偏向させ、それによって偽りの加速度読取値を与える

以下の例は、時間副詞thereafter、finallyにより分詞構文の動作が主文の動作の後に生じることを示しています。ただし厳密にいうと、to不定詞で置き換えられないので、結果の分詞構文ではなく、andの代わりです。

●例文19

After he arrived in the Troad, Dardanus received a grant of land from Teucer and married his daughter Batea, shortly thereafter founding the city of Dardania at the foot of Mount Ida.
ダルダヌスは、トローアド地方に着いた後、テウセルから土地の授与を受けて彼の娘バテアを娶り、その後まもなくイダ山の麓にダルダニアの町を築いた

●例文20

The city of Troy stood as a bastion overlooking the Hellespont for centuries, finally falling into ruin and leaving the bleakhill of Hissarlik rising above the wind-swept Troad.
トロイアの町は何世紀もの間ヘレスポント海峡を見下ろす砦として屹立していたが、最後は廃墟と化し、吹きさらしのトローアドの上に立つヒサルリクの荒涼とした丘を残すのみであった。

独立分詞構文

意味上の主語が分詞の前に付いた独立分詞構文は、結果の分詞構文と同じく主文の後に訳します。次の例文は結果を表します。弁が開いてアンモニアが液化するのではありません。

●例文21

This gaseous ammonia will condense in the condenser 24, the valve 22 being open.
この気体アンモニアが凝縮器24内で凝縮し、22が開く

独立分詞構文の主な用途は追加説明で、andで書き換えられます。この用法は例文23に示すように特許のクレームで頻繁に使われます。

●例文22

The stone is known as the "BRUTUS STONE," the tradition being that the Trojan prince set foot upon it when he first landed.
この石は"ブルータスの石"として知られ、その伝説はトロイの王子が初めて上陸したときそれを踏んだというものである

後半をややくだいて「〜という伝説がある。」と訳すことができます。

●例文23

l. A method of supplying an r.f. field to a plasma in a vacuum plasma chamber processing a workpiece, the r.f. field being supplied to the plasma by a reactive impedance element connected via a matching network to an t.f. source, the r.f, field having a frequency and power level sufficient to ignite the gas into the plasma and to maintain the plasma, the matching network including first and second variable reactances that control loading of the source and tuning a load including the reactive impedance element and the plasma to the source, the method being characterized by (1) determining the amount tbe first variable reactance is to change for each unit change of the second variable reactance to attain the best match between the impedances seen looking into and out of output terminals of the r.f. source by changing the values of the first and second variable reactances, and (2) then varying the values of the first and second variable reactances based on the determination made in step (1) until the best impedance match between the impedances seen looking into and out of output of terminals of the r.f, source is attained.
ワークピースを処理する真空プラズマ・チャンバ内のプラズマに高周波フィールドを供給する方法であって、高周波フィールドが整合ネットワークを介して高周波源に接続されたリアクタンス性インピーダンス要素によってプラズマに供給され、高周波フィールドがガスをプラズマに着火し、プラズマを維持するのに十分な周波数および電力を有しており、整合ネットワークが高周波源のローディングと、リアクタンス性インピーダンス要素およびプラズマを含む負荷の高周波源に対する同調とを制御する第1および第2の可変リアクタンスを含んでいる方法において、(1)高周波源の出力端子の内外に現れるインピーダンスの間の最良の整合を達成するために、第2の可変リアクタンスの各単位変化に対して第1の可変リアクタンスが変化する量を決定し、(2)高周波源の出力端子の内外に現れるインピーダンスの間の最良のインピーダンス整合が達成されるまで、ステップ(1)で行われた決定に基づいて第1および第2の可変リアクタンスの値を変動させることを特徴とする方法。

●例文24

Where I represents the intensity obtained in the plane of the screen when the LCD is controlled in such a way that one pixel in two is in the state of maximum transmission, the other being in the state of zero transmission.
上式で、Iは、2個の画素の一方が最大透過状態にあり、他方がゼロ透過状態にあるようにLCDが制御されるときに画面の平面内で得られる輝度を表す。

この例では並列の意味を表し、単なるandの代わりです。one pixel以下の主文と分詞構文の意味上の比重が変わらないので、追加説明ではありません。

懸垂分詞構文

懸垂分詞とは先に述べたように意味上の主語が(主文の主語とは異なるのに)省略されたものです。例文2と3は、よく考えると、referringの意味上の主語が主文の主語と違っていますね。意味上の主語が省略されるのは、主に一人称Iや汎称theyのときです。したがって、よくGenerally speakingなど慣用的に使われます。

ここで分詞構文の文章表現上の意義を考えてみますと、よく省略表現といわれますが、たとえ接続詞や副詞を伴っていて形の上では副文にした場合より短くならなくても、また意味の曖昧さが解消されていても、人称、数、時制などを背負った定動詞に比べて軽い、したがって主文への求心性が高まるという効果があると思われます。動名詞や不定詞など他の非定動詞形を使った構文についても同様のことが言えます。

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