翻訳者が翻訳ミスを犯すのはだいたい決まったポイントで、
同じようなパターンによるものなのです。"
私は、本格的に翻訳の仕事を始めて30年ほどになります。もともとは化学および歴史を専攻していましたが、外国語が好きで、各国の言語を独習するうちに、理解できる人が少ない“特殊言語”の翻訳を受注するようになったのが、この道に入ったきっかけです。
翻訳会社サン・フレアで、長年「チェッカー」の仕事をしてきました。これは名前の通り、翻訳者の皆さんが仕上げた翻訳文をチェックする役割です。英語の原文と日本語の翻訳文を見比べて、不適切な翻訳があれば修正し、適宜翻訳者に指摘します。
そんな仕事を続けているうちに、気づいたことがあります。翻訳者が翻訳ミスを犯すのはだいたい決まったポイントで、同じようなパターンによるものなのです。
そのうちに社内外の翻訳者の方々と勉強会などを開くようになり、そうしたポイントをレジュメにして配り、手引きとして使うようになりました。そのレジュメが、いつの間にか何十枚にも膨らんできました。 こうしたノウハウを眠らせておくのはもったいない。一気に本にするのも大変なので、『誤訳パターン克服法』というタイトルで、まず雑誌『通訳翻訳ジャーナル』(イカロス出版)に連載させてもらうことになりました。
それを再収録したのが、ここに掲載した『翻訳の泉』です。なお、業界の一部では、翻訳ノウハウの公開を極度に避ける向きもあるようですが、私はそうした立場は取っておりません。