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第13回 復習 その2

はじめに

前回は、主に初心者の方の翻訳を題材にしましたが、今回の題材の過半はベテラン翻訳者の方のものです。いわば、勢いで訳してしまったうっかりミスというべきものもかなりあります。

●例文1

There is no teaching of an FM data signal nor of the possible retransmitting of the FM signal.
FMデータ信号のデジタル化についても、あるいはFM信号を再送信できるかもしれないことについても教示内容はない。

teaching は行為ともその内容とも取れますが、訳語は「教示」だけで十分です。possible は「可能な」、すなわち「起こり得る」という意味です。

FMデータ信号のデジタル化についても、あるいは場合によってはあり得るFM信号の再送信についても教示されていない/教示はない。

●例文2

The output from the demodulator may then be applied directly to the display, or the filtered digital signal can be applied directly to a storage file for selected output via the printer.
次に復調器からの出力を直接ディスプレイにて利用してもよいし、あるいはフィルタリングしたデジタル信号を、選択された出力についてプリンタを介して格納ファイルにて直接利用することもできる。

for output の output を名詞と解釈してしまいましたが、動作名詞です。selective なら間違わなかったでしょうが、selected に惑わされたようです。apply は「適用」ではなく「印加」「加える」です。

次いで復調器からの出力を直接ディスプレイに印加することができ、またフィルタしたデジタル信号を、プリンタを介して選択的に出力できるように、記憶ファイルに直接印加することもできる。

●例文3

A further step may be added after the overetching to remove any residual byproduct polymer deposits.
その後のステップは、すべての残存副産物高分子堆積物を除去するため前記オーバ・エッチングの後、付け加えられることがある

この訳は、形の上では大きな誤訳はないのですが、内容は全く理解できていません。A further step だけでは抽象的なので、内容をはっきり定義した表現がこれにかかるはずです。to 以下がそれです。なお further は「さらなる」という訳し方もありますが、普通は「別の」または「次の」と訳せます。「これ以上の」「より詳しい」という意味になることもあります。場合によっては「さらに」と副詞形で訳す手もあります。mayは許可「してもよい」の意味です。

オーバエッチングの後、残った副生物ポリマー堆積物を除去するための別のステップを追加することができる

●例文4

The range of encoded values is -128 to 127, therefore, an array of length 256 is initialized to contain the decoded values.
符号化値の範囲は−128〜127であるため、長さ256の配列を初期化して復号化値を格納する。

この to 不定詞は、change などの後に来る場合と同様に意図を表すので、後ろから「〜ように」と訳さなければなりません。その際に可能の意味をはっきり出すといっそうわかりやすい訳文になります。なお、前にも述べましたが、therefore を「〜ので」と訳す必要はありません。この場合は大した違いはありませんが、「〜、したがって」とそのまま訳す習慣を身につけておくと、複雑な場合に間違っても傷が浅くて済みます。

符号化値の範囲は−128〜127であり、したがって長さ256のアレイを、復号値が格納できるように初期化する

●例文5

The transmitted FM audio signal is then demodulated at the doctor's office or health service center for viewing of the actual data whereupon the patient's personal doctor is alerted if a problem is seen in the data.
次に、実際のECGデータを見てデータに問題が認められた場合にはすぐに患者の担当医師の注意が促されるように、送信されたFMオーディオ信号は医師のオフィスまたは公共の医療サービスセンターにおいて復調される。

for viewing を「〜ように」と訳したのはよいのですが、話の順序どおり、これを後ろに回すと一層わかりやすくなります。alert の訳語を工夫してみました。

次いで、送信されたFMオーディオ信号は医師のオフィスまたは医療サービスセンターで復調され、実際のECGデータを見てデータに問題が認められた場合にはすぐに患者の主治医に通報が届くようになる

●例文6

In this situation the Heart Card need only transmit the frequency modulated audio data into the receiver of a telephone which is connected via a suitable telephone system, either wireline or wireless, to a telephone at the attending physician's office whereupon the telephone transmitter can direct frequency modulated audio data into the microphone of the palmtop computer to complete the information relay.
このような状況にあって、ハートカードは、無線または有線の適当な電話システムを介して付き添い医師のオフィスの電話に接続された電話の受信器に周波数変調オーディオデータを送信するとすぐに、電話の送信器が周波数変調オーディオデータをパームトップコンピュータのマイクロフォンに送って情報の中継を完了できることのみを必要とする

need は whereupon の前までしかかかりません。whereupon は and thereupon の意味ですが、それを「するとすぐに、〜」と訳すのが習慣になっていて、機械的に訳してしまったのでしょう。

このような状況では、ハート・カードから無線または有線の適当な電話システムを介して主治医のオフィスの電話に接続された電話の受信器に周波数変調オーディオ・データを送信するだけでよくその後、周波数変調オーディオ・データを電話の送信器からパームトップ・コンピュータのマイクロフォンに送って、情報の中継を完了することができる

●例文7

The portion of the conformal oxide layer on the surface of the polysilicon remaining in the partially filled trench is then selectively removed while leaving oxide about the upper side wall of the trench to serve as a collar oxide.
一部充填されているトレンチに残っているポリシリコン(または他の電荷蓄積物質)の表面の上にある共形の酸化物層の部分はその時、カラー酸化物として役目を果たすために側壁の上部付近の酸化物が残存している間に選択的に除去される。

leave は他動詞です。while の訳し方も拙かったようです。付帯状況と解釈して、後ろから「〜を残して、」と訳すこともできますが、対比を表すものと解釈して、単に前から連用形でつなぐだけでもよさそうです。then は「そのとき」ではなく「その後」の意味で「次いで」と訳すと好都合です。

次いで、共形酸化物層のうち一部充填されたトレンチ内に残っているポリシリコン(または他の電荷蓄積材料)の表面上にある部分を、トレンチの上部側壁の付近にカラー酸化物として働く酸化物を残して、選択的に除去する。

●例文8

The resultant advantage of a constant viewing angle across the field translates into the elimination of undesirable variation of shadowing effects of objects that have depth along the lens axis.
視野を横切る一定の視覚角度結果として生ずる利点は、レンズ軸に沿う深さを有する対物レンズの陰影効果の望ましくない変動消去に変わっている

これは、a constant viewing angle を形容詞構文として訳すと、わかりやすく訳せます。eliminate は、前にも述べましたが「なくする」という意味です。translate は自動詞ですので「(という別の形)に変わる」という意味です。resultant は of 以下とは関係ありません。

その結果得られる、視野の全域で視角が一定であるという利点は、レンズ軸に沿って深さを有する物体の陰影効果の望ましくない変動がなくなるという形で現れる

●例文9

If the oxide is not completely removed from the polysilicon surface where the trench is to be refilled, the performance of the capacitor may be compromised due to poor electrical connection between the polysilicon material deep in the trench and the polysilicon material deposited on trench refilling (i.e. in the portion of the trench having the collar oxide along the trench walls).
酸化物がトレンチが再充填されるはずのポリシリコン(または他の充填物質)の表面から完全に除去されなければ、キャパシタの電気的特性は、トレンチの深部のポリシリコン物質とトレンチ上に再充填で堆積されたポリシリコン物質との間の貧弱な電気的接続のために落ちる恐れがある。

poor electrical connection も形容詞構文です。する可能性があるという意味の may は、望ましくない状態を示す場合、このように「する恐れがある」と訳すと、そのニュアンスがはっきり出せます。それに、句読点をもっと使うべきです。少なくとも、「なければ」の後と「のために」の後に。poorは「不十分な」と訳します。performance を「電気的特性」とするのは訳しすぎです。compromise には「妥協」の他に「損なう」と言う意味があります。

この酸化物が、トレンチが再充填されるはずのポリシリコン(または他の充填材料)の表面から完全に除去されない場合、トレンチ深部のポリシリコン材料とトレンチ再充填物(すなわち、トレンチ壁面に沿ってカラー酸化物を有するトレンチ部分)上に堆積されたポリシリコン材料との間の電気的接続が不十分になるために、キャパシタの性能が損われる恐れがある。

●例文10

Each storage area includes a state variable which is modified responsive to one of said promotional units communicating with said respective one of said cards.
各記憶域は、前記個人カードのうちの前記それぞれ1つの個人カードと通信する前記販売促進ユニットのうちの1つの販売促進ユニットに応答して変更される状態変数を含む。

言うまでもなく動名詞構文です。販売促進ユニットに応答するのではなく、販売促進ユニットの通信するという動作、状況に応答するのです。one の訳し方は、上記のように元の名詞を繰り返すべき場合もありますが、この場合は冗長になります。

各記憶域は、前記販売促進ユニットの1つが前記カードの前記それぞれ1つと通信するのに応答して変更される状態変数を含む。

●例文11

an example of which is illustrated schematically in FIG.1 with the horizontal axis representing the epitaxial growth direction and the vertical axis representing the electronic bandgap for the different materials.
その一つの例が、異なる材料に対してエピタキシーの成長方向を示す水平軸と電子の禁止帯の幅を示す垂直軸とを持って、図1に略図で示されている。

いわゆる付帯状況構文です。この構文を知らないとこういう訳になります。この場合は単なる and として扱えます。

その一例を図1に示す。図では、水平軸は様々な材料のエピタキシアル成長の方向を示し、垂直軸はその電子バンドギャップを示す。

●例文12

to make a lens assembly with a window made of flat sapphire and lenses placed behind such window
平坦なサファイアで形成された窓と、そのような窓の後部に配置されたレンズとを含むレンズ組立体を作成する

この with は付帯状況構文とも having ともとれます。付帯状況構文は元々こういう形から発達してきたものと思われます。次のように訳すこともできますが、どちらが better でしょうか。

平坦なサファイアで窓を形成し、その窓の背後にレンズを配置して、レンズ組立体を作成する

●例文13

whichever entry is currently considered to be the Best Guess may then be replaced...
どの項目が最良推測であると現在見なされていても、〜置き換えることができる。

疑問詞に ever の付いた形は、譲歩を表す場合と関係詞の一種の強調形の場合とがあります。この場合は後者で、主語となる名詞節を作るので、「〜どの〜も」と訳します。

最良推測であると現在見なされているどの項目も、〜置き換えることができる。

●例文14

This is a surprising and unexpected result since those skilled in the art believe HFC-134 alone and an azeotrope thereof with HFC-152a have essentially no effect on the solid polystyrene.
当業者はHFC-134だけ▼を信じており、そしてそのHFC-152aとの共沸混合物は本質的に固体ポリスチレンに効果がないので、これは驚くべき、しかも予想外の結果である。

believe の後に名詞節を作る that が省略されているのに気が付きませんでした。でもこれでは意味が通らないことは明らかなはずですが。believe は「考える」です。

HFC-134単独、およびそれとHFC-152aの共沸混合物は本質的に固体ポリスチレンに対して効果がない当業者は考えているので、これは驚くべき、しかも予想外の結果である。
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